朝日新聞 環境ルネサンス 「学校林」活用 滋賀・朽木の試み


    我らが校舎 我らの木で 

 
                                     旧朽木村有林                          新体育館内部完成図

朽木中に建つ屋根が木造の新体育館の完成予想図左側が朽木東小。(現代計画研究所)

                                             樹齢60年を超えるスギを切り倒す高島市森林組合の中越豊さん(60)

我らが校舎 我らの木で
琵琶湖西岸にある滋賀県高島市の朽木地区は山深い木の里である。そこで暮らす人たちが何世代にわたって育んできた「学校林」を切り出し、その木材を使って地元の小中学校の体育館づくりを進めている。「地域で育てた木々で孫たち次世代の体育館を」と住民参加で建設計画を練り上げ、木造構法による設計チームを募集した。そして決まったのが、伝統木造の名橋「錦帯橋」の技術を取り入れた大屋根の体育館だ。(論説委員・野呂雅之)


中学校管理のスギ400本利用
新しい体育館ができるのは高島市立朽木中学校と隣接する朽木東小学校。それぞれの敷地には旧朽木村のときに建てた体育館があるが、いずれも築30年を超え、老朽化が進んで建て替えることになった。少子化の影響もあって朽木中の体育館だけ新築し、小中学校の共有とする計画だ。
旧朽木は面積の93%が森林で占める。その木をふんだんに使って、森の豊かな朽木にふさわしい体育館はできないか。そんな基本方針を掲げ、詳細な計画については校長やPTA代表、林業家ら地元の31人が参加する検討委員会に委ねられた。
検討委員会は昨春に始まり、主要な構造部には学校林など地元の木を使って、地域の職人の技を生かすことが決まった。委員長を務める玉垣勝さん(72)は旧朽木村の元村長。
「戦後、朽木中学の第1期の木造校舎をつくるため、土地を売って建設費を賄った。そんな生みの苦しみを経験したことで、次の世代で学校を建て替えるときのために植林をした」
そうした村有林のうち、枝打ちなどの体験学習に使うため管理を朽木中に任せたのが学校林だ。戦前に植えた木も指定され、今では朽木の学校林は4千本(6.42f)にのぼる。
昨秋に設計を募集したところ、全国から10チームの応募があり、現代計画研究所(本社・東京)の設計チームが提案したアーチ形の大屋根の体育館が選ばれた=完成予想図参照。選考にあたった朽木中同窓会長で林業家の松原勲さん(66)は「苦労して育てた学校林を使って新築できる。朽木の山並みにも調和したすばらしい意匠で、体が震えるほど興奮した」と言う。
新体育館は延べ床面積約1350平方b。山口県岩国市の錦帯橋の伝統木造構法の技術を応用した大屋根が特徴だ。「持ち送り重ね梁」という構法で、重ねた木材を長い方に少しずつずらして伸ばし、それを繰り返しながら架け渡す。冬には1.7bの積雪があるため、その重みに耐えられるよう本体部分は鉄筋コンクリートにして、大屋根の部分を木造にする計画だ。


「ふるさとの森 感じて」
体育館と小学校は連絡橋で結び、その渡り廊下はヒノキやアスナロ、モミなど朽木産のさまざまな樹木でつくる。体育館の内部も一面を木張りにする計画で、「子どもたちがふるさとの森や木の魅力を五感で味わえるような空間をつくりたい」と現代計画研究所の今井信博社長(49)は話す。
大屋根などには1700本の木が必要で、すべて旧朽木村有林から切り出した。そのうち学校林は樹齢86年と52年のスギ400本。市森林水産振興課の今城克啓参事(39)が山を歩いて選定した。地元の木で建てるメリットについて、今城さんは「その場所にある木材腐食菌への耐性が強く、最も耐久性がある」と言う。木の本来持つ粘りを保つよう自然乾燥させるため、木組みが始まるのは10年5月の予定だ。10年度中の完成を目指している。
大屋根を組むには常時20人の大工が必要で、地域の職人をどうやって参画させるのか、その方法が課題だ。検討委員会の相談役を務める金沢工業大名誉教授の鈴木有さん(70)は「朽木産の木材を使い、地元住民が協働参画して練り上げるという前例のない体育館の建設計画だ。大屋根のアーチ架構に地場職人の技をどう生かせるか、それが計画実現の鍵をにぎる」と指摘する。


学校林・・キーワード
地域の学校が管理する森林。学習の一貫として間伐や枝打ち、下草刈りなどをする。国土緑化推進機構の学校林状況調査によると、学校林を保有する学校は06年度に全国の小中高校の7.8%(3057校)80年度(5692校)を境に減り続けている一方で、東京や大阪、千葉など都市部を中心に13都道府県で保有校が増えている。体験学習への期待の高まりが背景にあるようだ。